— 板へのこだわりと、その先にある笑顔の話 —
サーフボードに徹底的にこだわる気持ちは、今でもよくわかりますし、心から大肯定したいと思っています。
ロッカーのわずかな立ち上がり、レールの厚み、ボトムのコンケーブ、そしてフィン選び。ミリ単位のシェイプの違いで波の抜け感がどう変わるのかを想像する時間は、サーフィンの何にも代えがたい醍醐味のひとつです。
実際、かつての僕自身もずっとそうでした。
少しでもキレのあるターンが描ける板、自分の技術を一段上に引き上げてくれるような“最高の一本”を、いつも貪欲に探していました。海に入る前のワクワクの半分以上は、間違いなく「板そのもの」に向いていた気がします。
けれど、年齢を重ね、海に通う回数を重ねていくうちに、自分の中の優先順位が少しずつ、でも確実に変わってきました。
ふと気づくと、海に入る前の自分の心境が、以前とは違っていたんです。
「今日はいいターンを何本決められるだろうか」
「あの混雑したピークで、どれだけいい波を捕まえられるだろうか」
そんなふうに、どこか自分を試すような、少し力んだ気持ちで海に入ることが減っていきました。代わりに浮かんできたのは、ずっとシンプルな願いでした。
「今日も怪我なく、無事に水に入れたらいいな」
「海から上がったあとに、『今日も気持ちよかったな』と笑顔でいられたら、それで十分だな」
道具への愛着や、美しいサーフボードへのリスペクトが消えたわけではありません。ただ、いい意味で「波に乗れれば、どんな板でも楽しいんじゃないか」と、肩の力を抜いて思えるようになったんです。
今の僕にとって、最も大切にしたいのは「安全性」と「笑顔」です。
海は素晴らしい場所ですが、一歩間違えれば危険と隣り合わせでもあります。硬くて尖ったサーフボードは、自分だけでなく周りのサーファーにとっても凶器になり得ます。いい波が割れるピーク周辺では、波を奪い合うような張り詰めた空気感が漂うことも少なくありません。
そんな緊張感から一歩引いて、スポンジボードのようなやわらかい板を手にする日が増えたのは、ごく自然な流れでした。
スポンジボードに乗るようになってから、海の中で見える景色がガラリと変わりました。
メインのピークから少し離れた、誰も狙わないような厚めのインサイドの波。割れにくくてショートボードではテイクオフしづらい波でも、浮力のあるやわらかい板ならスッと滑り出すことができます。スピードを出して派手なアクションをする必要はありません。ただ波の斜面に揺られ、水の上を滑っていく感覚そのものを味わう。
万が一バランスを崩して板が自分や誰かに当たってしまっても、大きな怪我につながるリスクはずっと低い。その圧倒的な安心感があるだけで、周りのサーファーにも自然と笑顔で会釈ができ、海の中にいる時間全体が、驚くほど穏やかで優しいものになります。
板の性能をとことん突き詰めて、道具と身体をギリギリまで研ぎ澄ますサーフィンも、確かに刺激的で素晴らしい世界です。
でも、その面白さを一度感じてきたからこそ、いま「ただ海に浮かび、波に運ばれる楽しさ」に戻ってこられたことが、自分にはとても心地よく感じられます。
波が小さくても、風が入って面が乱れていても、海に入って水に触れるだけで、その日は特別な一日になる。
安全に、穏やかに、笑顔で上がってくること。それさえ叶えば、その日のサーフィンはもう100点満点なのだと思います。
今日も自転車のキャリアにやわらかい板を積んで(たまのトリップなら車に放り込んで)、気負わずに海へ向かいたいと思います。



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